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37話 予期せぬ好意と心の温もり

Author: みみっく
last update Huling Na-update: 2025-11-22 06:00:35

「お、お兄ちゃん……あのね、ちがうの。あの男の子に話し掛けられてね、お父さんの部下の人のドジな話をされて笑ってただけなの……」

 エリゼは、レイニーの顔色を伺いながら、早口で釈明を始めた。その声には、レイニーに誤解されたくないという必死さが滲み出ている。エリゼが話を始めると、セリオスは満足げに頷いて、静かにその場を去って行った。

 あーちゃんの話を聞いていなければ、レイニーにはエリゼの言葉の意味が全く分からなかっただろう。何が違うのか、なぜ言い訳を始めたのかも。俺がヤキモチを妬くとか、エリゼが好きなのは俺だけだと言いたいんだろうな。レイニーは、エリゼの純粋な気持ちに、心が温かくなるのを感じた。

「あーうん。そっかぁ〜」

 レイニーは、どんな返事を返していいか分からず、曖昧に相槌を打った。というか、セリオスが珍しく少年兵の集まる方へ向かってるじゃんっ。面白そう……レイニーの好奇心が再び刺激される。

「あ……セリオスがヤキモチを妬いていますね……面白そうですよ! にひひ……♪」

 あーちゃんの声が、レイニーの頭の中に響いてきた。その笑い声には、どこか悪魔らしい嗜虐性が混じっている。

「その笑い方、俺じゃん〜」

 レイニーは、思わずツッコミを入れた。

「飼い主に似ちゃうんですよー」

 あーちゃんは、悪びれる様子もなく答えた。あーちゃん、俺を飼い主だと認めているんだ? そういえばこの世界に使い魔っているんだよな? 従者契約と違うのかなぁ? レイニーは、あーちゃんの言葉に、新たな疑問を抱いた。

 あぁ〜暇だったのでいつも眺めていて知っているけど……少年兵たちが、いつも行っている訓練とは明らかに違う、張り詰めた空気を纏った訓練が始まった。隊長や他の講師たちも、その場に緊張した様子で固まっているのが見て取れる。彼らの顔には、通常では見られないほどの真剣さと、畏怖が滲んでいた。

 あぁ……セリオスって軍の中じゃ幹部だしなぁ。レイニーは、セリオスの地位の重さを改めて認識した。階級社会じゃ軍の頂点か。話をしていると……呼び捨てで呼ぶことがあるけど、他の人じゃ考えられないことなんだよなぁ。レイニーは、セリオスとの奇妙な親密さを再確認した。前に護衛兵に、セリオスを呼んできてって頼んだ時も顔色を悪くしていたしなぁ〜。その時の護衛兵の怯えた表情が、ありありと脳裏に蘇る。

 少年兵の訓練も真面目なセリオスだし……無茶なことはしないと思う。それより……レイニーの視線は、隣のエリゼへと向けられた。

「さっき、お父さんになんて言われたの?」

 レイニーは、エリゼの顔を覗き込み、少し心配そうに尋ねた。

「え? ……ん……それは……」

 エリゼは、返事をためらうように、視線を泳がせた。その頬は、ほんのり赤く染まっている。

「あぁ……話しづらかったら言わなくても良いよ〜。ちょっと気になっただけだから」

 レイニーは、エリゼの様子を察し、無理強いしないよう言葉を添えた。

「えっと……あのね、他の男の子と仲良くしていると、「お兄ちゃんが、もう会いに来てくれなくなるぞ」って……言われて、その……わたし焦っちゃったぁ……」

 エリゼは、少し恥ずかしそうに、そしてわずかに困ったような顔でレイニーの胸に顔をうずめて囁いた。その声は、耳元でか細く震えている。

 エリゼに仲の良い子が出来たら、俺は気軽にエリゼに会いに来れなくなるよな。レイニーは、ふとそんな未来を想像した。兵士の男の子にしたら、同僚と仲良く話をしていたら会社のお偉いさんが来たような感じで、お互いに気を使っちゃうしなー。実際、俺は会わずに帰ろうとしてたし。こういう関係になることは……想定外だったなぁ〜。まあ、好かれて嫌な気はしないから良いか〜。レイニーの心には、温かい感情と、少しの困惑が入り混じっていた。

 さすがに、もう見飽きちゃったな〜。少年兵たちの訓練を眺めていたレイニーは、大きくあくびを噛み殺した。初めは、魔法に剣術が珍しくて、夢中で見てたけど自分も使えるようになったし。レイニーは、自身の成長を感じて、少しばかり退屈を覚えていた。

「なぁ〜あーちゃんって、剣術って使えるの?」

 レイニーは、肩に乗るあーちゃんに、まるで新しいおもちゃを見つけた子供のように、好奇心旺盛に問いかけた。

「まぁ、幼少の頃に……多少は、習いましたけど……」

 あーちゃんの声には、どこか億劫そうな響きがあった。

「わぁっ。マジかぁ〜! ねぇ、ねぇ……あーちゃん。後で、悪魔の剣術を教えてくれない?」

 レイニーの目は、悪だくみを思いついたかのようにキラキラと輝いた。

「……イヤです。ムリムリ……レイニー様の剣術の腕を知っていますしぃ……。教えることなんてありませんっ」

 あーちゃんは、即座に、そして断固として拒否の意思を示した。その声には、心底嫌だという感情が込められている。

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